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インタビュー

第5節試合コラム『苦境の時こそ“All For One!”ー4連敗』

 「ただ、ただ完敗です」。80分間、からだを張った日野レッドドルフィンズの闘将、FL村田毅はこう、漏らした。顔には、苦渋と悔恨、徒労感が浮かんでいる。
 確かに今季の神戸製鋼は強い。スキがない。あのダン・カーターさまがいなくとも、才能ある個性が並び、こうやって勝つんだというアングルが見える。だが、「死に者狂い」で挑みかかる気概と確固たる戦術があれば、日野のペースに持ち込むことができる。そう、試合前は考えていた。
 とくに大事なのはゲームの入りである。トップリーグ初昇格のチャレンジャーの鉄則は『先手必勝』であろう。前の試合のNTTコミュニケーションズ戦では前半20分で4トライを先行されてしまった。この日もまた、最初の20分で4トライを奪われるとは。
 日野の細谷直監督もまた、「今日は見ての通りの完敗でした」と口を開いた。
 「前半の入りが課題でもあるので、しっかりとコンタクトエリアで対抗していこうと言っていた。それが実現できなくて…。相手の強みを出させて、終始、我々のペースで試合ができなかった。これが完敗の要因です」
 からだをぶつけあう競技にあって、コンタクトエリアでの優劣は大きい。接点、神鋼は2枚(2人)が壁になるような感じで前に出てきた。逆に日野が攻める場合にはサポートプレーヤーが遅らされ、1対1をつくられていた場面が目についた。
 村田主将も述懐する。誠実、朴とつ、実直、ほかに言葉が見つからない。
 「やっぱりラグビーは接点のコンタクトスポーツ。そこで80分間、受けに回ったところが敗因かな…」
 悔しい。チャレンジャーが受けてどうするのだ。前半7分、ラインアウトからのモールを押し込まれて、日本代表に選出されたばかりのトンガ出身、ナンバー8の中島イシレリに右中間に飛び込まれた。
 その5分後には、元ニュージーランド代表のSHアンドリュー・エリスにラックサイドを突かれた。前半17分、左ラインに回したボールを相手CTBリチャード・バックマンにインターセプトされ、インゴールまで持ち込まれた。パス捕球直前にボールを奪われたナンバー8の千布亮輔はぼう然と立ち尽くすだけだった。
 その3分後の前半20分、神鋼に細かく、はやくパスをつながれて、WTB井関信介に右隅に飛び込まれた。3-24となった。この新人には計4トライを決められ、「マン・オブ・ザ・マッチ」を献上した。
 接点が劣勢ゆえ、どうしてもハンドリングミスが起こりがちとなる。スローフォワード、ノックオン、パスミス…。赤色ジャージの神鋼に比べ、黒色ジャージの起き上がりも遅くなる。ディフェンス網の出足が鈍り、薄く、ばらけてくる。不運の連鎖に見舞われた。
 前半34分には6本目のトライを決められ、スコアは3-36となった。33点差。4本のトライ(ゴール)でも届かない。絶望的な点差がついた。
 無論、日野の選手はあきらめない。この日唯一の日野のトライは前半36分だった。敵陣ゴール前まで攻め込み、相手の反則をもらった。状況判断に長けるFBギリース・カカが速攻を仕掛け、右ラインに速いテンポでつないで、最後はCTBオーガスティン・プルがロングパスをWTB鄭演植に通して、右中間に飛び込んだ。
 これが日野のテンポである。が、小さなミスがつづく。PKからのタッチキックをミスし、陣地を大きくは挽回できない。これでは、ペースに乗ることはできまい。
 10-34で折り返した。後半も同じような攻防がつづき、結局、大量12トライを奪われた。「ヒノ、ヒノ、ヒ~ノ」「イケ、イケ、ヒ~ノ」。一方的に負けているのに、スタンドの日野ファンは最後まで声を出してくれた。
 10―74でノーサイドのホーンが鳴った。ことし、神鋼から日野に移籍してきたフッカー木津武士は故障による戦列離脱で試合には出場できなかった。「向こうにやりたいようにやられた」と悔やんだ。
 「レベルの差を感じますね」
 技術、体力、フィジカル…。これらを短期間で変えることは無理でも、メンタルは劇的に変えることができる。戦いはまだ、つづく。次はNEC(10月13日・千葉・柏の葉公園総合競技場)、リーグ戦最終戦が王者サントリー(10月20日・秩父宮ラグビー場)である。
 どこから立て直すのか。まずはスクラムである。セットプレーである。そして、接点勝負。前に出る。必死に前に出るのである。
 村田主将は決然と言った。
 「どう転ぼうが、あと2試合ある。切り替えていく」
 実は、試合の朝、京都・下鴨神社の「ラグビー神社」、雑太社(さわたしゃ)を参った。前日、来られた日野レッドドルフィンズの総務関係の人が祈願した絵馬が飾られていた。
 こう、書かれていた。
 <日野レッドドルフィンズ トップリーグで優勝 2018・10・6>
 苦境の時こそ、チームスローガンの「All For One!」である。One(勝利)に向けて。日野のプライドをかけて。

細谷直監督コメント (ディフェンスでは)我々が相手のボールをスローにできなかった。一人目のボールキャリアをしっかりとタックルで倒し切れなかったし、接点をタテに動かされてディフェンスをより集められてしまった。気持ちを切り替えて、あと2試合、我々のラグビーを取り戻していきたい。

村田毅主将コメント 勝つつもりで準備してきたんですけど、足りない部分をたくさん、肌で感じました。課題は多かった。具体的なところはちょっと…。チームのみんなには、こんな負けをしても、ネガティブにはならず、次に向けてやっていこうと話しました。この負けからたくさんのことを得られると思うので、それを次に生かしていきたい。

Text By 松瀬学

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