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インタビュー

第6節試合コラム『原点回帰をーあぁ5連敗』

 もの哀しい秋である。日野レッドドルフィンズはNECグリーンロケッツの本拠、千葉・柏の葉公園総合競技場に乗り込んだ。「連敗脱出だ!」。特に燃えていたのが、かつてNECに在籍していた日野のナンバー8、36歳のニリ・ラトウだった。
その背から闘気が漂っていた。主将のフランカー村田毅が言った。
 「ニリがこの試合に対する思いをすごく持っていたのは感じていました」
 アクシデントが開始4分後、ラトゥを襲った。頭部からタックルに行った際、当たりどころが悪かったようで、グラウンドに倒れ込んだ。動かない。脳震とうに見えた。
 心配そうにラトゥに駆け寄るチームメイトが、そばで円陣をつくった。村田主将の述懐。
 「“ニリのためにやろう”“ニリの分までやろう”という声が円陣で出ました。みんなの思いがひとつになった。一致団結しました」
 ニリは担架で運び出され、HIA(Head Injury Assessment=頭部損傷評価)を受けることになった。脳震とうと診断され、負傷退場となった。代わりに千布(ちふ)亮輔が入った。千布には悲壮感が漂っていた。
 その後、日野はよく、タックルに行った。ブレイクダウンでもからだを張った。だが、気負いからか、自陣ゴール前でオフサイドの反則を連発した。前半8分、とうとう右プロップの村上玲央が反則の繰り返しでイエローカード(10分間の一時退場)をもらった。
 なぜ、麻生彰久レフリーの笛に対応できなかったのか。気負いゆえか。リスク意識の欠如か。ラグビーの試合において、レフリーの笛への対応力は勝敗に影響をおよぼす。
 日野はひとり少なくなったことで、スクラムで劣勢に回った。コラプシング(故意に崩す行為)を犯した。負の連鎖がつづく。前半13分、ラックの近場を立て続けに攻められ、この日の「マン・オブ・ザ・マッチ」、CTBマリティノ・ネマニに右中間に飛び込まれた。先制トライを奪われた。
 日野の細谷直監督は試合後、声を落とした。
「一番悪かったのは、ペナルティーだと思います。接点が強いNECに対して、我々もそこを逃げずに前に出ようと考えていました。でも、ちょっとペナルティーが多くて、我々のペースが乱されてしまいました」
 因縁の相手といってもいいだろう。日野にはNEC経験者が多々、いた。ラトゥのほか、細谷監督も村田主将もかつて、NECに在籍していた。この日今季初先発した40歳の左プロップ、久富雄一もかつて、NECで10年間、プレーした。
 会見で古巣を意識しましたか、との質問が出た。細谷監督は苦笑した。
 「あんまり意識しませんでしたね。久々に柏にきて、柏の葉の試合会場に入ってきたとときには“久々に来たなあ”とは感じましたけど…」
 では村田主将は。日野に移籍する一昨年まで6年間、NECでプレーしていた。
 「ほとんどの(NECの)選手が一緒にプレーしていたので、特別じゃないことはなかかったですね。でも別に集中力が薄れることもなく、ただ純粋に、目の前の相手に勝ちたいという思いだけで戦いました」
 日野はコンタクトエリアでよくファイトした。ただ、時折、タックルが甘くなる。ふたり目が遅くなる。巨漢のNECナンバー8のジョージ・リサレやネマニ、途中から入った203センチ、120キロのサナイラ・ワクァにゲインを許した。
 スクラムにしても、組んだ瞬間は互角でも、時間が経つと圧力を受けてしまう。8人がまとまって我慢できないのである。後半、押し込まれた。なぜ? 細谷監督が言った。
 「目に見えないプレッシャーを受けていたのかなと思います。そういう積み重ねが後半に出て、崩されたのではないでしょうか。最終的にはやられました」
 前節の神戸製鋼戦に比べると、勝負にはなっていた。でも、負けた。規律、ディフェンス、ハンドリングのスキル不足ゆえか。なぜ勝てないのか? と問えば、百戦錬磨の久富は「我慢」と繰り返した。
 「我慢の差ですね、アタックも、ディフェンスも我慢の差です」
 次のリーグ戦最終戦の相手は王者サントリーである。正直、戦力の差はある。ここは全員が全身を凶器として相手に襲い掛かるしかあるまい。失礼ながら、「窮鼠猫を噛む」とのコトバもある。どこで勝負するのか、と村田主将に聞いた。
 「まだ分析していませんから」と前置きしながら、村田主将はこう、言葉を足した。
 「もちろん、勝ちにいきます。勝ちにいった上でしか、何も得られないと思うからです。現実は厳しいですけれど、また気を引き締めて、いい準備をしていきたい」
 こういう時は原点を思い出そう。開幕戦の宗像サニックス戦の時のセットプレーとディフェンスを取り戻そう。もはや相手がどうのこうのではない。自分たちは何ができるのか、まずは、そこにこだわろう。
 今こそ、セットプレー、接点で前に出て、ワイドに展開する日野スタイルを。けが人が多くとも、戦力で劣るとも、互いを信じ、意思統一し、挑みかかる気概があるなら、王者にも対抗できる。
 ところで、日野ファンはあたたかい。この日もスタジムのバックスタンド半分に赤色Tシャツで陣取り、最後の最後まで声を枯らしてくれた。「イケ、イケ、ヒ~ノ!」「ゴー、ゴー、ドルフィンズ!」。その声援にこたえるのは、試合で勝つのが一番である。ひたむきさが一番である。
選手もファンも同じ絵を描こう。日野の軽快なリズムに乗って。さあ、声を合わせて。
 トントントントン、ヒノノニトン♪
 トントントントン、ヒノノニトン♪ 
 さあ、みなさん、ご一緒に。
 トントントントン、ヒノノニトン♪


 細谷直監督 前半、ちょっとペナルティーを量産したことで、我々のペースが乱されたところがありました。今日の敗戦はしっかりと受け止めて、次週のサントリーに向かっていきたい。トップリーグのチームとしての責任をしっかり果たして、どう(下位)トーナメントにつなげるのかという試合をしたいと思います。

 村田毅主将 ペナルティーがすごく多くて、相手のやりたいゲームをさせてしまったのではないかと思っています。勝ちにいくつもりで戦って、だから、たくさん得られたことも多かった。戦う姿勢の部分とかは相手を下回っていたとは思わない。みんなが同じ絵をみられるよう、ちょっと詰めていけば、勢いに乗れると思う。そこまでの辛抱です。

Text By 松瀬学

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