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【ジャパンラグビートップリーグ】第4節試合コラム『前に出る気概が決勝PGにつながったーラトゥ、TL通算100試合』

 胃の痛くなるような雨中戦だった。ロスタイムの決勝PGのチャンス。スタンドの最上段の日野・箕内拓郎ヘッドコーチ(HC)は立ち上がって腕組をしながら、キッカーの田邊秀樹を見つめていた。

 その時の心境を問えば、「う~ん」としばし、考え込んだ。
 「最後にチャンスが訪れたのは、80分間、うちがプレッシャーをかけつづけたからでしょう。ふだんのラグビーとは違うカタチでしたけど、選手がやるべきことをやってくれていたので、それが最後のペナルティーにつながったのかなと思っていました」

 横殴りの雨が降りしきる中、途中から交代出場していた田邊が落ち着いて、この決勝PGを蹴りこんだ。赤色の日野のジャージが輪になる。歓喜の渦だ。やっと勝った。やっと。勝利の雄たけびをあげた。
 
 グラウンドをよく見れば、39歳のナンバー8、ニリ・ラトゥはひとり、緑の芝生にひざをつき、右こぶしを顔につけていた。ひょっとして、泣いていたのかもしれない。

 この試合が、トップリーグ通算100試合出場となった。リーグ87人目となる記録ながら、外国チーム代表選手となれば、珍しい記録達成だろう。ラトゥはトンガ代表として54キャップを誇っている。

 ラトゥのTL初出場は、NEC選手としての2007年10月の神戸製鋼戦だった。その時は25歳。NEC選手として、8年プレーし、主将も務めた。その後、英国のクラブでもプレーし、2018年、日野に移籍してきた。じつは昨季、新型コロナウイルス禍による中断でシーズンが終わった時、「引退」を決意していたそうだ。だが、NECでは一緒にプレーをしたこともある箕内HCに慰留された。
 
 これも縁だろう。古巣のNEC戦で記録達成とは。ラトゥは「スペシャルな気分」と何度も口にした。

 このラトゥの思いは、他の選手のモチベーションも刺激していた。フランカーの堀江恭佑・共同主将は「ニリが100キャップ。特別な試合だった」と言った。「ここまで結果がなかなか出ず、悔しい思いをしてきた。結果が出て、ほっとしています」

 1週間前の同カードは、雷のため中止となった。その代替試合もまた、横殴りの激しい雨中戦となった。箕内HCらコーチ陣は、悪天候は十分、予想していたようだ。SHのオーガスティン・プル共同主将は「2週間、今日のような天気を想定して練習してきた」と打ち明けた。

 つまり、キックを多用する「キッキング・ゲーム」となる。加えて、FW勝負となる。スクラム、ラインアウトのセットプレーもだが、接点勝負となる。コンタクトエリアでいかに前に出るか。

 前半は雨のため、ボールが手につかないこともあって、要所でミスを続発した。トライチャンスは何度かあった。PGチャンスでもスクラムを選択した。はたから見ると、「なぜ?ショット(PG)をしないのか」と不思議に感じた。なぜ。堀江・共同主将は「中の選手たちの判断です」と述懐した。

 「フォワードが、スクラムであったり、モールであったり、ラックサイドの近場であったり、手ごたえがあったので、そう(トライ狙いのスクラム)を選択しました」

 箕内HCの「選手がやるべきこと」とは、からだを張ることだった。相手に挑みかかる気概。前に出ることだった。結束することだった。それは、何もグラウンドの選手だけではない。試合に出ないノン・メンバーも、コーチ陣も、ひとつになっての初勝利だった。

 やはり、勝利はうれしいじゃないの。豪雨の中、赤色のレインコートを着て応援した日野ファンも、小躍りしていた。実は、スタンドの記者席では、日野レッドドルフィンズの広報担当とつい、“グータッチ”で勝利を祝った。ありがとう!

 試合後、スタンド下では、ラトゥのお祝いセレモニーがあり、日野とNECが一緒になっての記念撮影まであった。ラトゥの大きな記録、日野の大きな勝利だった。

 堀江共同主将は言った。
 「まだ、トップリーグは続いていく。自分たちはもっと成長できると思っている。先を見て、練習していく」
 そうだ。次は28日、NTTドコモ(花園)戦。この勝利を弾みとし、チャレンジはまだ、続くのである。

(Text By 松瀬学)
         

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