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【ジャパンラグビートップリーグ】トーナメント第2回戦試合コラム『「感謝」のラストゲーム。来季につながるチャレンジ』
この充足感は何だろう。経験豊富なベテラン選手がからだを張る。相手チームの外国人選手ほどの華やかな経歴がなくとも、鍛え、信じ、考え、挑みかかる気概があるなら、格上にも対抗できるのだった。
「ファイティングスピリットを80分間、全員がすべてを出し切ろうと話をしてきました」と、闘将のSHオーガスティン・プルは言った。試合後のオンライン会見。
「それが、できました。キャプテンとして、チーム全員のパフォーマンスには感謝しています。周りのみなさんのサポートにも感謝しています」
日野は後半の中盤には一時、トヨタ自動車に4点差と詰め寄った。だが、そこから3連続トライを奪われた。勝敗の帰趨は決まった。終了のホーンが鳴った。でも意地を見せた。
ペナルティーキックをタッチに蹴り出し、敵陣ゴール前のラインアウトとした。今季限りの引退を表明していた40歳の北川俊澄が、これをクリーンキャッチする。まさに“ラストキャッチ”、とてもビューティフル。モールを組んだ。ドライビングモールだ。左に右にぐいぐい押していく。
よく見れば、北川ほか、33歳のプロップ浅原拓真、39歳のニリ・ラトゥらベテラン勢がうまく押し込み、いい仕事をしていた。円熟のワザとパワーの結集。最後は、フッカー郷雄貴がインゴールにボールを押さえた。
箕内拓郎ヘッドコーチが、「結果は非常に残念ですが」と漏らし、こうしみじみとした口調で続けた。
「やはりトヨタのような強いチームに対しては、15人ではなく、思い入れのある23人で戦う必要がありました。代わった選手を含めて、全員が80分間、しっかり戦ってくれたのかなと思います」
最後のトライのあと、コンバージョンキックは北川が蹴ることになった。海外では、引退が決まっている選手に最後のコンバージョンを託す習慣がある。それにならい、日野の選手たちが粋な計らいをしたのだ。
北川は嫌がりながらも、思い切り、右足で蹴った。万感のコンバージョンキック。右に外れた。40歳は「ゴールキック(コンバージョンキック)は今までの人生で蹴ったことなかったので」と照れた。
「やりたくない、やりたくない、と言ったんですけど、みんながすごくプッシュしてくれて…。やっぱり、ありがたいですね」
北川はトップリーグが創設された2003年度にトヨタ自動車に入社し、16シーズン過ごしたあと、系列会社の日野自動車に移籍してきた。日野で2シーズン。つまり、北川のラグビーの社会人人生はトップリーグの歴史と共に歩んできたものだった。
ラストゲームが古巣のトヨタ自動車相手だったのも巡り合わせだろう。試合後、少し泣いているように見えましたが? と水を向ければ、北川はいつものごとく、“ビッグ・スマイル”を浮かべた。
「まだ現実的に引退するという実感はないんですけど、ほんとうに楽しい試合をさせてもらったなと思っています。あの~、泣いていたか、泣いていないかというと、決して泣いてはいません」
誠実、朴とつ、実直。いい人である。では、どんなラグビー人生でしたか?
「もちろん、しんどい時もありましたけど、トータルで見て、ほんとうに楽しいラグビー人生だったなと思っています」
日野には「感謝」という言葉を何度も繰り返した。これで現役引退するが、残る選手たちに希望を託した。
「自分たちが準備してきたものを出し切った試合でした。ネガティブに考えず、来シーズンにつながる結果と思って、さらに強いチームになってほしい」
こうやってチームの歴史は紡がれていくのである。この敗戦をどう、苦闘の先の栄光へ結ぶのか。日野というチームの脈絡をみた思いがするのだった。
(Text by 松瀬学)
「ファイティングスピリットを80分間、全員がすべてを出し切ろうと話をしてきました」と、闘将のSHオーガスティン・プルは言った。試合後のオンライン会見。
「それが、できました。キャプテンとして、チーム全員のパフォーマンスには感謝しています。周りのみなさんのサポートにも感謝しています」
日野は後半の中盤には一時、トヨタ自動車に4点差と詰め寄った。だが、そこから3連続トライを奪われた。勝敗の帰趨は決まった。終了のホーンが鳴った。でも意地を見せた。
ペナルティーキックをタッチに蹴り出し、敵陣ゴール前のラインアウトとした。今季限りの引退を表明していた40歳の北川俊澄が、これをクリーンキャッチする。まさに“ラストキャッチ”、とてもビューティフル。モールを組んだ。ドライビングモールだ。左に右にぐいぐい押していく。
よく見れば、北川ほか、33歳のプロップ浅原拓真、39歳のニリ・ラトゥらベテラン勢がうまく押し込み、いい仕事をしていた。円熟のワザとパワーの結集。最後は、フッカー郷雄貴がインゴールにボールを押さえた。
箕内拓郎ヘッドコーチが、「結果は非常に残念ですが」と漏らし、こうしみじみとした口調で続けた。
「やはりトヨタのような強いチームに対しては、15人ではなく、思い入れのある23人で戦う必要がありました。代わった選手を含めて、全員が80分間、しっかり戦ってくれたのかなと思います」
最後のトライのあと、コンバージョンキックは北川が蹴ることになった。海外では、引退が決まっている選手に最後のコンバージョンを託す習慣がある。それにならい、日野の選手たちが粋な計らいをしたのだ。
北川は嫌がりながらも、思い切り、右足で蹴った。万感のコンバージョンキック。右に外れた。40歳は「ゴールキック(コンバージョンキック)は今までの人生で蹴ったことなかったので」と照れた。
「やりたくない、やりたくない、と言ったんですけど、みんながすごくプッシュしてくれて…。やっぱり、ありがたいですね」
北川はトップリーグが創設された2003年度にトヨタ自動車に入社し、16シーズン過ごしたあと、系列会社の日野自動車に移籍してきた。日野で2シーズン。つまり、北川のラグビーの社会人人生はトップリーグの歴史と共に歩んできたものだった。
ラストゲームが古巣のトヨタ自動車相手だったのも巡り合わせだろう。試合後、少し泣いているように見えましたが? と水を向ければ、北川はいつものごとく、“ビッグ・スマイル”を浮かべた。
「まだ現実的に引退するという実感はないんですけど、ほんとうに楽しい試合をさせてもらったなと思っています。あの~、泣いていたか、泣いていないかというと、決して泣いてはいません」
誠実、朴とつ、実直。いい人である。では、どんなラグビー人生でしたか?
「もちろん、しんどい時もありましたけど、トータルで見て、ほんとうに楽しいラグビー人生だったなと思っています」
日野には「感謝」という言葉を何度も繰り返した。これで現役引退するが、残る選手たちに希望を託した。
「自分たちが準備してきたものを出し切った試合でした。ネガティブに考えず、来シーズンにつながる結果と思って、さらに強いチームになってほしい」
こうやってチームの歴史は紡がれていくのである。この敗戦をどう、苦闘の先の栄光へ結ぶのか。日野というチームの脈絡をみた思いがするのだった。
(Text by 松瀬学)