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トップチャレンジリーグ vs 中国電力 レッドレグリオンズ

トップチャレンジリーグ 第1節

2017.09.09

16:00 K.O.

コカ・コーラウエスト広島スタジアム

日野レッドドルフィンズ
52
28 - 3
24 - 14
17
中国電力 レッドレグリオンズ
TGPGDGTGPGDG
4400前半0010
4200後半2200

トップチャレンジリーグ vs 中国電力 レッドレグリオンズ

日野自動車の今季の目標は。

「1位通過。トップリーグ自動昇格です」

即答するのは佐々木隆道。国内最高峰トップリーグの強豪、サントリーから加入して2年目の33歳だ。各地域リーグの上位陣からなる新設のトップチャレンジリーグで優勝すれば、入替戦をおこなわずにトップリーグへ昇格できる。

そのためには、どんな積み上げが必要か。やはり佐々木が断じる。

「ゲームリーダーがゲームをコントロールすること。全員がコンタクトシーンでアグレッシブかつ確実なプレーをすること。そして、セットプレー(攻防の起点)を安定させること」

ラグビーにあって不可避な領域を、徹底的に鍛え上げたい。その思いは、前年度まで挑んだトップイーストでの成績を7、4、4、2位と引き上げてきたチームの方針と、ほぼ同じである。

東海大学でも教える宮本安正スクラムコーチが、セットプレーのひとつであるスクラムでの圧力、まとまり、好姿勢を保つ意識をインストール。さらに佐々木のような他チーム出身者もより多く加わったなか、細谷直監督は新たな地平を見つめる。

「1、2次のアタックの質にも、相当、こだわっています」

大きくボールを動かした先の接点へ、サポート役が素早く入る。次の攻撃に参加する巨躯の「縦の脅威」を活かす…。その青写真を、これまで以上に鮮明に打ち出したいという。

 ファンに期待感を抱かせて迎えた、9月9日。広島のコカ・コーラウエストグラウンドで、トップチャレンジリーグの開幕節に挑む。前年度までトップキュウシュウにいた中国電力を52-17で下す。

 試合後に円陣を組んだ細谷監督は、しかし、「これから、この煮え切らない部分を解消していこう」と選手に伝えた。生産管理部に勤務する31歳の廣川三鶴主将も、「誰も、満足していないと思います」と頷いた。

 快調な足取りにも映るかもしれないが、本人たちの実感は違うのである。



 キックオフ早々、相手の出足は鋭かった。オール日本人で編成される中国電力は、ハイパントを蹴って落下地点へ駆け上がる。捕球役に圧力をかける。その地点から、さらに防御網をせり上げる。

それに対し、大きくボールを動かそうとする日野自動車は受けに回ったか。相手と接触する際の体勢が、やや上ずったようでもあった。オープンサイドフランカーの佐々木も反省しきりだ。

「相手の圧力もありましたけど…日頃の癖ですね。練習するしかないです」

 試合を通して苦しんだのは、空中戦のラインアウトだった。

 特に、21―3とリードして迎えた前半終了間際。チャンスの場面で、球を真っすぐ投げ入れないノットストレートの反則を犯してしまう。

この後はスクラムを押し返すなどし、日野自動車は攻撃権を再獲得。アウトサイドセンターに入った坂本椋矢の走りが相手のハイタックル(肩より上への危険なタックル)を誘う。

ペナルティーキックをタッチラインの外へ蹴り出し、再び自軍ラインアウトで止めを刺しにかかる場面だ。

ところがボールはまたも、捕球役の手に収まらなかった。

結局はこぼれたボールをキープし続け、ウイングの小澤和人がフィニッシュ。28―3とリードしてハーフタイムに入るのだが、ラインアウトの投入役の廣川主将は下を向くばかりだ。

「自らチャンスを離してしまった。もっと、練習しないと…」



 不満の残る快勝劇だった。それでも細谷監督は、「いいところもありました」とも話している。

確かに苦しんだ前半も、インサイドセンターのブレッド・ガレスピは飛び出す相手タックラーをかわしながらのキックで落ち着きをもたらしていた。

ボールがガレスピの位置より後ろへそれても、神戸製鋼から移籍の田邊秀樹がウイングの位置からスペースをチェック。キックで着実にえぐった。15、30分とスクラムを圧倒してトライを決めたこともあり、日野自動車は主導権を保った。

後半6分には、敵陣22メートル線付近左中間でスクラムを得る。

バックスへ展開すると、2番目にバトンを受け継いだガレスピが防御網を突破。追っ手に捕まれるや、隣の坂本へ繋ぐ。

坂本が敵陣ゴール前まで進んで相手の落球を呼び、再び日野自動車がスクラムを獲得。フォワード陣がぐいとプッシュし、ナンバーエイトの千布亮輔がインゴールを割った。直後のゴール成功で、スコアは35―3となる。

 司令塔のスタンドオフに入ったのは、この春に中途入社した染山茂範だ。昨季まで相手の中国電力でプレーしていたとあって「楽しみで、不安。経験したことのない気持ちでした」と苦笑も、ガレスピとともに首尾よく舵を取った。

 勢いに乗った12分。球を持ったガレスピが自陣から一気に駆け上がると、敵陣10メートル線を超えたあたりで染山がパスを受ける。敵陣ゴール前左へ、鋭いキックを放つ。

 弾道の先で中国電力がミスを犯すと、日野自動車ボールのスクラムから染山がボールを呼び込む。右のガレスピに短いパスを放ると、その右へ回り込んだ染山が、再度、楕円球を手にする。目の前の防御を振り切りながら、さらに右のスペースへ展開。この日4トライを決めた小澤の3トライ目を演出した。40―3。

「ずっと先発で出ることを意識します。移籍したからには覚悟を決めてやっていきたいです。そうすることで、中国電力の人にも『頑張っているんだな』と認めてもらえる」

新天地の「トヨタ部」へ勤める26歳の染山がこう決意する傍ら、来日8年目となる29歳のガレスピも日本語で続ける。

「今季のフォーカスポイントは、ハイテンポなラグビーです。染山はキックもパスも上手いし、本当にいい選手。一緒にできて、面白いです」



遡って1月28日、福岡はレベルファイブスタジアム。トップリーグのコカ・コーラとの入れ替え戦を22―32で落とした。佐々木は試合内容を鑑み、「悔しさしかない。コンタクトで勝ちながら、ゲームに勝てていないですから」と反省したものだ。

この経験も踏まえてか。トップリーグにいたこともあるトップチャレンジリーグ上位勢を倒すには、心身両面における絶対的な底力が必要だと佐々木は考えている。大量得点差のついた試合に課題を見出すのも、自然な流れなのだ。

「少し歯車がかみ合わなくなった時、いいリードをできなかったのがきょうの反省点です。『トップリーグのチームとやるなら、こういうなかでこんなプレーができたらいい』というプレーを選択して、それがミスに繋がったりもしました。そこではシンプルな、確実に流れを渡さないようなプレーを選択すべきだった。まだまだ、レベルアップしないと」

 目標設定を鑑みれば不満足ながら、一定の良さを示したことも確か。日野自動車にとっての今季初戦は、そういう時間だった。

 加速を止めない赤いジャージィたちは、16日、東京の秩父宮ラグビー場で元トップウエストの中部電力とぶつかる。コンディション不良のため開幕節を欠場したレギュラー候補も、相次ぎ復帰の予定。物語は始まったばかりだ。


【細谷監督】
開幕戦はお互いにフレッシュな状態で臨みます。相手が相当なチャレンジをしてくることを想定して、ゲームの組み立てをしました。ただ、予想以上にラインアウトでプレッシャーを受けました。修正もできなかった。それでも相手に流れを渡さなかったのは、バックスの精度が高かったから。チーム力が上がっている感じはしました。

【廣川主将】
勝ったことが一番の収穫です。開幕戦が難しい試合になるのはわかっていたなか、前半の終盤にラインアウトを連続してミス。今日はそこに尽きます。バックスに申し訳ない。個人的なスキルの問題でもあるので、しっかりと修正していきたいです。スクラムは圧倒していましたが、これくらいできないと。


【プロフィール】

Text by 向風見也 
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポーツナビ」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。「現場での凝視と取材をもとに、人に嘘を伝えないようにする」を信条とする。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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