トップチャレンジリーグ vs マツダ ブルーズーマーズ
日本最高峰のトップリーグを目指す舞台として今季から新設されたトップチャレンジリーグは、華舞台へ続く長いあぜ道だ。
昨季までトップイーストにいた日野自動車は1週間おきに広島、東京を転戦し、今度の9月24日は本州の最西端へ渡る。
舞台は、山口宇部空港から約14キロ離れたきらら博記念公園のサッカー・ラグビー場。ピッチレベルと観客席の目線がほぼ一緒の天然芝グラウンドだ。すぐそばの多目的広場では子どもたちがソフトボール大会を楽しんでおり、参加者の父兄と思しき人たちが折り畳みの椅子を広げている。
日野自動車の面々は、サッカー・ラグビー場の入り口正面に建つロッカーハウスで着替えなどを済ませる。中国電力を52-17、中部電力を55―7でそれぞれ下してはいるが、目標のトップリーグ自動昇格に向けては攻撃の連携などで反省点を残していた。今度の相手は、トップキュウシュウ出身の古豪で海外出身選手もいるマツダだ。トップリーグのNECから日野自動車に新加入した28歳の村田毅は、こう意気込んでいた。
「今週の練習では頭を使う部分に力を入れ、ひとりひとりの役割をクリアにできた」
課題解決への意志は、試合開始早々に現れた。
まずは相手のキックオフを、「調達企画部」の27歳である藤田哲啓が自陣22メートルエリア右で捕球。目の前の防御の壁に果敢にクラッシュする。
さらにマツダがキックに備え後方の防御を分厚くするのに対し、バックス陣が左中間のスペースへ展開。ここからニュージーランドからやって来た27歳、フルバックのギリース・カカが大きく突破する。
そしてトップリーグの神戸製鋼から加わった29歳、田邊秀樹がノーホイッスルトライを決めた。直後のゴール成功で、早速、スコアボードを7―0としたのだ。
あっという間での先制までの流れは、準備の賜物だった。
「マツダさんがキックをケアするだろうという分析通り。うまくはまった」
左ウイングに入った田邊はこう手応えを掴み、その後も各人への声出し、飛び掛かってきた防御の裏への短いキックなどで存在感を発揮する。攻撃のシステムは機能し、19分までにスコアは19―0と広がった。
特にチーム3本目となるトライは、日野自動車の看板であるスクラムを押し込んでのものだった。そのスクラムの最前列中央のフッカーに入っていたのは、「技術管理部」の崩光瑠。トップリーグの東芝から移って2シーズン目の26歳だ。フォワード8人の塊を堂々と引っ張る。
「スクラムは去年からの武器。皆に言っているのは、『方向は僕がコントロールするから、後ろから押し込みのパワーをくれ』ということ。全員がそれを徹底してやってくれています」
ファーストプレーで魅した藤田は、ブラインドサイドフランカーとして黒子役を全う。コンタクトの際は倒された後もほふく前進し、守っては突進した相手のボールへの絡みで味方防御網の組成を手助けした。
ハーフタイム直前にはその藤田が、敵陣中央の密集の真上を突っ切る。日野自動車のアタックにリズムを出し、最後は敵陣ゴール前右に回った藤田がカカのキックパスを受け取りインゴールへ飛び込む。31―5とほぼ勝負を決め、ハーフタイムを迎えたのだった。
「流れを変えることを意識してやっています。フランカーの仕事です」
遠方から駆け付けたファンは、広島、東京での折と変わらず真っ赤なスティックバルーンを打ち鳴らしていた。
「今夜、もっと大声を出せばよかったと後悔しないようにしましょう!」とメガホンを響かせる私設応援団の声を背に、後半も日野自動車はエンジンをかけ続ける。
5分にはスクラムの押し込み、12分には攻守逆転から加点。20分にも安定したスクラムからパス、インゴールへのゴロキックを繋ぐなどし、直後のゴール成功もあり54―12と大差をつけた。
ここからは選手交代後の運動量などを課題としながらも、25分、村田が大味になりそうなゲームを引き締める。
自陣ゴール前で守勢に回るなか、相手ランナーをタックルで転ばせる。すぐに起立し攻防の境界線の後ろへ回る。腰を落とし、敵の持つボールに手をかける。
「一人二役でも三役でもやりたかった」
結局、素早い球出しをと焦ったマツダのサポートプレーヤーが村田を真横から妨害。オフサイドの反則を犯した。ペナルティーキックを得た日野自動車は用意された連携攻撃でゴールエリアまで進み、61―12とさらに点差を広げたのだ。
ノーサイド。68―19。サントリーから移籍2年目の33歳、佐々木隆道は、オープンサイドフランカーとして56分間ピッチに立ち「空いたスペースにボールを運べて、テーマにしていたセットプレー(スクラムなど)でも圧倒できた。狙い通りでした」。着実なステップアップを認めたのだった。
戦前からマストとしてきた開幕3連勝を果たした日野自動車は、2週間後の10月7日、岩手のいわぎんスタジアムで釜石とぶつかる。殊勲の田邊は「やることはいままでと変わらず、ハードワーク。ひとりひとりの運動量で勝負していきたい」。旅路を進むほどタフになり、サポーターの期待に応えてゆく。
【細谷監督】
これから我々が(上位を争う)三菱重工相模原、ホンダへの挑戦権を得るには、この日の内容が大事だと選手に伝えました。一番こだわりたかったのがフォワードの違いを見せつけること。特にスクラム、ラインアウトでアドバンテージを取る。それを終始、やってくれました。
【廣川主将】
いいスカウティング(分析)のもと、選手が自信を持って臨めていました。それが最初のプレーに現れて、立ち上がりがうまくいった。きょうは大丈夫だという安心した気持ちになり、(ベンチにいる時は)自分が出たら頑張ろうという思いでした。
【プロフィール】
Text by 向風見也
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポーツナビ」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。「現場での凝視と取材をもとに、人に嘘を伝えないようにする」を信条とする。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。
昨季までトップイーストにいた日野自動車は1週間おきに広島、東京を転戦し、今度の9月24日は本州の最西端へ渡る。
舞台は、山口宇部空港から約14キロ離れたきらら博記念公園のサッカー・ラグビー場。ピッチレベルと観客席の目線がほぼ一緒の天然芝グラウンドだ。すぐそばの多目的広場では子どもたちがソフトボール大会を楽しんでおり、参加者の父兄と思しき人たちが折り畳みの椅子を広げている。
日野自動車の面々は、サッカー・ラグビー場の入り口正面に建つロッカーハウスで着替えなどを済ませる。中国電力を52-17、中部電力を55―7でそれぞれ下してはいるが、目標のトップリーグ自動昇格に向けては攻撃の連携などで反省点を残していた。今度の相手は、トップキュウシュウ出身の古豪で海外出身選手もいるマツダだ。トップリーグのNECから日野自動車に新加入した28歳の村田毅は、こう意気込んでいた。
「今週の練習では頭を使う部分に力を入れ、ひとりひとりの役割をクリアにできた」
課題解決への意志は、試合開始早々に現れた。
まずは相手のキックオフを、「調達企画部」の27歳である藤田哲啓が自陣22メートルエリア右で捕球。目の前の防御の壁に果敢にクラッシュする。
さらにマツダがキックに備え後方の防御を分厚くするのに対し、バックス陣が左中間のスペースへ展開。ここからニュージーランドからやって来た27歳、フルバックのギリース・カカが大きく突破する。
そしてトップリーグの神戸製鋼から加わった29歳、田邊秀樹がノーホイッスルトライを決めた。直後のゴール成功で、早速、スコアボードを7―0としたのだ。
あっという間での先制までの流れは、準備の賜物だった。
「マツダさんがキックをケアするだろうという分析通り。うまくはまった」
左ウイングに入った田邊はこう手応えを掴み、その後も各人への声出し、飛び掛かってきた防御の裏への短いキックなどで存在感を発揮する。攻撃のシステムは機能し、19分までにスコアは19―0と広がった。
特にチーム3本目となるトライは、日野自動車の看板であるスクラムを押し込んでのものだった。そのスクラムの最前列中央のフッカーに入っていたのは、「技術管理部」の崩光瑠。トップリーグの東芝から移って2シーズン目の26歳だ。フォワード8人の塊を堂々と引っ張る。
「スクラムは去年からの武器。皆に言っているのは、『方向は僕がコントロールするから、後ろから押し込みのパワーをくれ』ということ。全員がそれを徹底してやってくれています」
ファーストプレーで魅した藤田は、ブラインドサイドフランカーとして黒子役を全う。コンタクトの際は倒された後もほふく前進し、守っては突進した相手のボールへの絡みで味方防御網の組成を手助けした。
ハーフタイム直前にはその藤田が、敵陣中央の密集の真上を突っ切る。日野自動車のアタックにリズムを出し、最後は敵陣ゴール前右に回った藤田がカカのキックパスを受け取りインゴールへ飛び込む。31―5とほぼ勝負を決め、ハーフタイムを迎えたのだった。
「流れを変えることを意識してやっています。フランカーの仕事です」
遠方から駆け付けたファンは、広島、東京での折と変わらず真っ赤なスティックバルーンを打ち鳴らしていた。
「今夜、もっと大声を出せばよかったと後悔しないようにしましょう!」とメガホンを響かせる私設応援団の声を背に、後半も日野自動車はエンジンをかけ続ける。
5分にはスクラムの押し込み、12分には攻守逆転から加点。20分にも安定したスクラムからパス、インゴールへのゴロキックを繋ぐなどし、直後のゴール成功もあり54―12と大差をつけた。
ここからは選手交代後の運動量などを課題としながらも、25分、村田が大味になりそうなゲームを引き締める。
自陣ゴール前で守勢に回るなか、相手ランナーをタックルで転ばせる。すぐに起立し攻防の境界線の後ろへ回る。腰を落とし、敵の持つボールに手をかける。
「一人二役でも三役でもやりたかった」
結局、素早い球出しをと焦ったマツダのサポートプレーヤーが村田を真横から妨害。オフサイドの反則を犯した。ペナルティーキックを得た日野自動車は用意された連携攻撃でゴールエリアまで進み、61―12とさらに点差を広げたのだ。
ノーサイド。68―19。サントリーから移籍2年目の33歳、佐々木隆道は、オープンサイドフランカーとして56分間ピッチに立ち「空いたスペースにボールを運べて、テーマにしていたセットプレー(スクラムなど)でも圧倒できた。狙い通りでした」。着実なステップアップを認めたのだった。
戦前からマストとしてきた開幕3連勝を果たした日野自動車は、2週間後の10月7日、岩手のいわぎんスタジアムで釜石とぶつかる。殊勲の田邊は「やることはいままでと変わらず、ハードワーク。ひとりひとりの運動量で勝負していきたい」。旅路を進むほどタフになり、サポーターの期待に応えてゆく。
【細谷監督】
これから我々が(上位を争う)三菱重工相模原、ホンダへの挑戦権を得るには、この日の内容が大事だと選手に伝えました。一番こだわりたかったのがフォワードの違いを見せつけること。特にスクラム、ラインアウトでアドバンテージを取る。それを終始、やってくれました。
【廣川主将】
いいスカウティング(分析)のもと、選手が自信を持って臨めていました。それが最初のプレーに現れて、立ち上がりがうまくいった。きょうは大丈夫だという安心した気持ちになり、(ベンチにいる時は)自分が出たら頑張ろうという思いでした。
【プロフィール】
Text by 向風見也
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポーツナビ」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。「現場での凝視と取材をもとに、人に嘘を伝えないようにする」を信条とする。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。