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トップチャレンジリーグ vs 三菱重工相模原 DYNABOARS

トップチャレンジリーグ 2nd第1節

2017.12.10

11:30 K.O.

三重交通G スポーツの杜 鈴鹿

日野レッドドルフィンズ
27
17 - 10
10 - 0
10
三菱重工相模原 ダイナボアーズ
TGPGDGTGPGDG
2210前半1110
1110後半0000

トップチャレンジリーグ vs 三菱重工相模原 DYNABOARS

ロスタイムは長かった。

 すでに27―10と勝負を決めかけていた日野自動車だったが、それとは別な意味合いでこれ以上の得点は与えたくなかった。プライドとクオリティは守りたかった。

 自陣ゴール前では互いに立ち位置と出方を確認し合いながら、ひとつひとつのタックルに持てる技能と気迫を詰め込む。

 フランカーで先発した「人事総務部」の西村雄大は、息を切らしながらも心は落ち着いていた。

「前半にオフサイド(ボールを起点とした架空の境界線より前でプレーする反則)を多くとられていた。だからあそこでは皆で『ノーオフサイド、ノーオフサイド』と声を掛け合って(立ち位置を確認)。前に出ないと相手にプレッシャーがかからないので、それも意識していました」

 日野自動車は攻守逆転から前方へ大きく球を蹴り、今度はグラウンド中盤あたりで守る。西村の肉弾戦でのファイトがまたも落球を誘ったが、まだ、試合は続いた。

 決着がついたのは、フルタイムの40分から約5分が過ぎたころだった。対する三菱重工相模原がボールを前に落とし、ノーサイドの笛が鳴る。追い上げを許さずに済んだ赤いジャージィは、安堵の表情で抱擁し合った。

試合後の円陣を組み終えると、選手たちはジャージィ姿のままメインスタンド入り口へ移動。ファンを見送る。人でごった返すなか、細谷直監督が喜びを語る。

「ディフェンスでは横同士の連動ができていて、支障をきたすことがなかった。あとはリザーブの人間が出るべきところで出て、点を取るべきところで取ってくれた。この試合に挑む準備ができていた」


国内最高峰トップリーグを目指すトップチャレンジリーグは、大詰めを迎えていた。日野自動車などファーストステージ上位4強は12月からセカンドステージAグループに参画。その第1節のうちのひとつが、今回のカードだった。会場は三重交通G スポーツの杜鈴鹿だ。赤い法被を着た応援団も東京からやって来て、他の来場者にこの戦いの意味を伝える。

「きょう、負けると、トップリーグへの自動昇格が(事実上)なくなるのです! 声がかれるまで応援しましょう!」

 4チーム中首位は自動昇格を決められ、2位以下はトップリーグ下部との入替戦という茨の道へ進む。発言には、3戦全勝を希求する思いが込められていた。

 日野自動車は10月22日のファーストステージ第5節で、三菱重工相模原に22―16で勝利。雨の降る東京・秩父宮ラグビー場に歓喜をもたらしていた。とはいえ、今回は互いにメンバーを入れ替えるなど仕切り直しの向きは強かった。キックオフするや、三菱重工相模原が先制。日野自動車の防御時の反則をきっかけに、手数の少ない攻めで気圧された。この先のタフな道のりを予感させた。

 もっとも、日野自動車はゲームを支配することとなる。

 初先発のスタンドオフ、ヘイデン・クリップスが起点となり、陣地を問わず左右へ球を振る。前半8分頃、NECから移ってきたロックの村田毅がその流れで大きな突破を繰り出す。

「クリップスが(相手の出方を)よく見て、(パスを大きく)振るところ、(ランナーを防御に)当てるところのコントロールをしてくれていた」とその背景を明かす村田のランは、敵陣10メートル線付近からゴール前まで右側のスペースを大きく切り裂いた。

三菱重工相模原がたまらず反則を犯し、日野自動車はペナルティーキックを右タッチラインの外へ出す。自軍ボールラインアウトを首尾よく獲得し、鍛錬してきたモールという塊を作る。まもなく、フランカーの佐々木隆道がトライラインを割った。

 ここで7-7と同点に追いついた日野自動車は、相手の新スタンドオフ、ダニエル・ホーキンズのランに手を焼きながらも、序盤戦を10―10と競る。

そして前半28分、自陣からの攻撃で神戸製鋼から新加入のフルバック、田邊秀樹が敵陣深い位置まで直進する。ここから着実に球をつなぐ過程で、相手のハイタックルによる一時退場処分を引き出す。クリップスがフィニッシュ。17-10と勝ち越しを決めた。

前半32分頃に渋く光ったのは、先制トライを挙げた佐々木だった。

自陣中盤右で、倒れた相手の持つボールへ絡むジャッカルという得意技を繰り出す。三菱重工相模原から寝たまま球を手放さないノット・リリース・ザ・ボールの反則を引き出した。

昨季サントリーから移籍して周囲に選手としての職業倫理を身体で伝えてきた34歳は、後半に入っても地上戦で魅する。「怪我している間もブレイクダウン(接点)の練習はしてきた」との自信を具体的なプレーで表すなか、日野自動車ファン待望の追加点が生まれた。

 キックの蹴り合いで敵陣22メートル線付近左へ進んだ24分頃、日野自動車は得意のスクラムでペナルティーキックを獲得。敵陣ゴール前左へ進む。直後に相次ぎ獲得したラインアウトこそ乱したものの、相手の蹴り返しから攻めを継続させる。

 最後は敵陣22メートル線付近右で、クリップスに代わって途中出場した「トヨタ部」の染山茂範が持ち味を生かす。防御を引き付けての絶妙なパスを放ち、やはり途中出場したロックの庄司壽之副将の突破を促したのだ。

「グローバル生産・補給物流部」の庄司はゴール前中央へ進む。すると三菱重工相模原は、反則に値する妨害をしてしまう。ペナライズされたのが前半に一時退場となった選手だったとあり、そのまま退場処分を受ける。刹那、日野自動車はペナルティーゴールで20-10と点差を広げるだけでなく、残り時間を敵より1人多い状態で戦えることとなった。

 最後にだめを押したのは25分だ。敵陣10メートル線付近右で、ウイングからセンターに入った「調達部」の26歳、篠田正悟が相手の無理矢理放ったパスをキャッチ。それをフルバックで途中出場のギリース・カカが受け取り、防御の背後へ大きく蹴る。自ら弾道を追って、グラウンディングした。27-10。ここから粘りの防御を重ね、トーナメント戦に近い位置づけのリーグ戦初戦を勝ち切るのだった。



ファーストステージ終盤戦では、九州電力から33失点、ホンダから54失点をそれぞれ喫していた。特にホンダとのゲームは32点差での敗戦。チームはこの折の反省を踏まえ、防御ライン上の選手間の幅を広げるよう意識。鈴鹿での90分近い熱戦は、そうしたマイナーチェンジの末に繰り広げられていた。

日本代表経験もある28歳の村田は、改善に手ごたえを掴むことができた。

「相手に関わらず、自分たちの戦い方ができるようになってきた。セットプレー(スクラムやラインアウト)を安定させる。モールで点を取る…。そういうシチュエーションをたくさん作っていければ、そこでスコアできなかったとしても、自分たちのラグビーを長くするという展開には持っていける」
 
スクラム最前列のフッカーで先発したのは「生産管理部」の32歳、廣川三鶴主将だ。勝負を優位に進めたスクラムを「押す自信はありましたし、実際に押せました。正直、まとまりはうちの方があったと思います」としながら、いまの立ち位置については「プレッシャーもある」と気を引き締める。

「(フッカーの背番号2は)楽に取れる番号じゃないことはわかっています。それをここで掴み取るには自分自身のパフォーマンスを上げないといけない。きょうのことは改めて振り返りますが、まだまだだな、という実感があります」

 フッカーの位置では、昨季から主に先発する「技術管理部」の崩光瑠が欠場中。さらに強豪パナソニック出身の林泰基も再調整を余儀なくされている。裏を返せば、日常業務とトレーニングを両立する多くの戦士が出番を得られる。指揮官の試合展開を受けての言葉通り、ここからはクラブ総体としての力が問われる。

この先は、日野自動車が苦しんだ九州電力、ホンダと続けて再戦する。最も激しいであろうフランカーの定位置争いのなか、26歳の西村は高らかに言う。

「しっかりタックルして、相手を倒して…。周りが奮い立つようなプレーができれば」

 抜本的なクラブ改革を目指す日野自動車を昇格争いの台風の目に引き上げた1人、佐々木は、「チームがやっていることを、ぶれずにやり切れるか、です。どんな状況でもつながりを意識させるようなリードをしていきたいです」。目下進行中の短期決戦を制すべく、観客席を含める形で一枚岩となりたい。


【細谷監督】
「2試合連続同じ相手に勝つことの価値、重要性を選手が捉えてくれていた。今回、勝ったことで、前回の雨天のなかでの白星をフロックじゃないと、スタンドで観戦した選手とも一緒に証明できた。それが素晴らしい。九州電力戦、ホンダ戦で出たディフェンスの課題を修正した。今日は、『このディフェンスをすれば勝てる』というものを見せてくれた」


【廣川主将】
「今回は相手がチャレンジしてくるとわかっていたので、試合の最初にどう戦うかが大事だと思っていました。結局、先制トライを取られはしましたが、ばたつくことはなかった。身体を当てる部分では引いていなかった」






【プロフィール】

Text by 向風見也 
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポーツナビ」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。「現場での凝視と取材をもとに、人に嘘を伝えないようにする」を信条とする。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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