MATCHES

トップチャレンジリーグ vs Honda HEAT

トップチャレンジリーグ 2nd第3節

2017.12.24

14:00 K.O.

長崎市総合運動公園 かきどまり陸上競技場

日野レッドドルフィンズ
10
10 - 29
0 - 26
55
Honda HEAT
TGPGDGTGPGDG
1110前半4310
0000後半4300

トップチャレンジリーグ vs Honda HEAT

ゲームが終わると雨は収まった。日野自動車ラグビー部の選手たちは、各々ロッカールームへ戻って赤いジャージィの上にベンチコートを着衣。ファンを見送るべくグラウンドの正門へ出る。

その道中、「強くならなきゃ、だめだな」と呟いたのは笠原雄太だ。

ロックのスターターを務めた「調達企画部」の33歳は、タックルして、タックルして、それでも突き放された試合展開を振り返った。

「やっぱり、パワーランナーを止められなかった」

2017年12月24日、長崎市総合運動公園かきどまり陸上競技場。トップリーグへの昇格をかけたトップチャレンジに参画中の日野自動車は、同リーグの上位4強による総当たり戦、セカンドステージAグループのラストゲームに挑む。ホンダとの全勝対決だった。

10―55。11月25日のファーストステージ対戦時に続き、このカードを落とす。過去3度のトップリーグ在籍経験のあるホンダが自動昇格を決めるなか、大きな教訓を得た。悲願の昇格を果たした後に課されるハードルを、改めて共有できたのだ。



空に鉛の雲が漂い始めた試合開始前から、メインスタンドでは東京から集まった応援団が声を枯らす。フィフティーンはBGMの響く会場へフィールド入り。メガホンを打ちつける音を背に、キックオフを迎えた。

細谷直監督に「お前たちの積み上げを信じてゆく」と送り出されたフィフティーンだったが、前半3、10分と反則や防御の乱れなどから失点。続く20分には、敵陣22メートル線付近まで攻め込みながらインターセプトされる。自陣中盤まで走られ、ペナルティーまで取られる。0-17と主導権を渡した。

ここまでで特に苦しんだのは、タッチライン際での空中戦、ラインアウトでの自軍ボール確保だ。強風で球が投げにくそうだった日野自動車陣営は、何とか補球した後も相手の圧力に難儀。3分に先制されるまでの過程では、ラインアウトのミスが2度、起こっていた。

「悪天候でボールがこぼれた。それを拾うリアクションが遅かった」

こう語るのは、トップリーグヤマハから移籍して3年目の笠原。ラインアウトの軸をなすロックへ入っていただけに、責任を感じていた。

笠原のほかのもう1人の先発ロックには、村田毅がいる。やはりトップリーグのNECから新加入した29歳の村田は、戦いながら自分たちのラインアウトの水準を見直さねばと思ったようだ。

「キャッチした後に下(地上)でもプレッシャーを受けていて、デリバリー(バックスへ球を繋ぐ動き)がうまくいっていないところも。(普段から)これを想定して練習していればよかったです。最近の練習では『捕ったら終わり』になっていたけど、ボールをバックスへクリーンに出すまでがラインアウトだったな…と」

 3-17と点差を詰めて迎えた前半25分には、自陣ゴール前にくぎ付けにされる。

組織防御を看板とする日野自動車は、ここでタックルとその後の起立で壁穴を埋め続ける。こぼれ球へ飛び込む。ピンチ脱出を試みる。

ところが最後は、負けずに攻撃権を奪い返したホンダが追加点を挙げる。日本代表ウイングのレメキ ロマノ ラヴァが、トライラインの向こうへボールを叩きつける。3-24。

日野自動車は、その後も何度か相手の海外出身選手に気圧される。だからウイングの田邊秀樹は、「1人ひとりの違い。その積み重ねが、最後に守り切れるか、スコアされるかの違い」。神戸製鋼から加わったばかりの29歳は、キャリアを踏まえて感じたリアルを明かす。

「僕らがアタックをしていても、相手が少しずつ勝っている分、守り切られてしまう部分もありました。チームのやろうとしていることどうこうではなく、そもそも、ホンダの方が上だったのかなと思います」

 もちろんこれらの振り返りは、来場者の見送りと着替えを済ませた後になされたものだ。試合中は、決して集中の糸を切らしていない。

「チョップタックルをもう1回!」

 21点差をつけられた直後、仲間を奮起させたのはフランカーの佐々木隆道だ。

サントリーから加入2年目の34歳も、田邊と同じようにプレーの強度で相手に分がありそうなことを認めてはいる。ただ裏を返せば、「組織として崩壊した感じではない」と確信していた。タックルの位置を相手の腰より下に保ち続ければ、失点の予防と得点機の醸成ができると考えたのだ。

 さらに加点されて迎えた前半ロスタイム。ホンダの反則から得た敵陣ゴール前右での自軍ラインアウトを安定させると、塊になって前に出て、その左脇をフランカーで「人事総務部」の26歳、西村雄大が突っ込む。刹那、スタンドオフで「トヨタ部」の27歳、染山茂範が左後方からパスを呼び込む。

首尾よく捕球するすると同時に、飛び出す防御の死角へ楕円の球を配す。25歳のアウトサイドセンター、モセセ・トンガのトライを演出した。自ら直後のゴールも決め、10-29と後半に望みをつないだ。

「テンポを出せばゲインはできると思っていた。それがうまいことはまって、トライになった」

後半初頭、佐々木のジャッカル(ラックで球へ絡むプレー)でホンダの反則を誘って敵陣ゴール前右へ侵入。ラインアウトを確保した先で再び相手のペナルティーが起こると、複数の選択肢から得意のスクラムを選ぶ。

ハーフタイムの最中から降り出した雨は、観客席の上の屋根を強く打つ。静寂を誘う。対する日本代表プロップ、具智元らの圧力に耐え、スクラムから球を出す。球を繋ぐ。

球を、落とす。

追撃のトライを挙げられず、続く12分には手数の少ない攻めからさらに点差を広げられる。10―36。一連の流れを、細谷監督は「ターニングポイントだった」と見た。

その後も日野自動車は、決してタオルは投げなかった。

10-43とされていた後半33分も、自陣ゴール前で西村が、佐々木が、途中出場したフッカーで「グローバル生産・補給物流部」の24歳である小野貴久が、地を這うタックルを重ねた。細谷監督の「負け惜しみに近い表現かもしれないけど、ある時間帯ではやってきたことができた」という談話も、決して大げさではなかった。

セットプレーと防御にこだわってきた歩みは、決して間違いではないと誰もが気づいただろう。それだけに、トップリーグでホンダのような相手と毎週ぶつかるためにはこだわりの質や濃度をより高めなくてはならないとも再確認したか。

1月20日には、2季連続参戦となるトップリーグ下位チームとの入替戦がある。対戦カードが直前まで決まらぬなか、日野自動車は何をすべきか。

佐々木、村田たちと同様トップリーグを知る田邊は、「1人ひとりがベーシックな部分を積み重ねないと」と言い切る。

「もしトップリーグに上がっても、来年すぐに落ちてしまったら意味がない。(入替戦では)『何人かの選手が活躍してたまたま勝つ』という形ではなく、チームとして完勝できるように。そのためには、1人ひとりがすべての部分でレベルアップしていかなくてはいけないと思います」

 さらに田邊は「相手のキーマンを一発で倒すタックルは、間違いなくやらなくてはいけないです」とし、「ベーシックな部分」を「フィジカル」と定義する。自分たちより大きな相手にずっと当たり勝っていられるような心技体の錬成を指す。

そう。間近にある大一番への特効薬ではなく、来季以降も継続すべき強化ポイントを明示したのだ。

「これは、ずっと言い続けていかないと。いままでも(フィジカル強化が大事だと)言っていないわけではなかったですが、まだまだ足りていないとわかった。ただ、勝てるか勝てないかという相手に勝つためのキーは、その部分にあります」

 ノーサイドの笛が鳴る。グラウンド上でうなだれる西村を佐々木が起こし、ファンの前に整列する。進路を定めた以上は、たとえその先が険しくてもまっすぐ進むだけだ。


【細谷監督】
ホンダさん、昇格おめでとうございます。我々も必死にチャレンジしましたが、完敗でした。要因はセットプレー(ラインアウト、スクラム)。我々の生命線でしたが、考えていた以上にやられた。ディフェンスでは、最後まで辛抱し切れなかった。入替戦では相手がどこになるかわかりませんが、自由(に攻められるよう)な時間はそう多くない。トップリーグのチームを相手に五分以上で戦えるセットプレーとディフェンスを作り上げたい。

【廣川主将】
セットプレーでアタックの機会を相手に与えてしまった。結果、アタックの時間が十分に得られなかった。そこは大いに反省すべき点です。ディフェンスはできたところ、できなかったところがあります。それらをしっかり振り返りたいです。アタックは、やりたいことができて得点につなげられた時もありました。今後はその形を、どれだけ多く作れるか…。入替戦までの時間は限られていますが、積み上げてきたことの精度を上げていきたい。あとは、当日にどれだけ力を発揮できるかにかかってくると思います。










【プロフィール】

Text by 向風見也 
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポー
ツナビ」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。「現場での凝視と取材をもとに、人に嘘を伝えないようにする」を信条とす
る。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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